サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
グァンチャーレ
【2015年 シンザン記念】いつまでも味わい深い買い得の逸品
地味なファミリーだけに、HBAサマーセール(1歳)での取引価格は200万円にすぎなかったグァンチャーレ。母チュウオーサーヤ(その父ディアブロ)はダートで1勝。ジャパンCの覇者であり、種牡馬入り後も多数の繁殖を集めているスクリーンヒーローが父である。後にモーリスがG1を6勝、ゴールドアクターも有馬記念に優勝して大きく評価を高めることになるのだが、同馬が初となるJRAの重賞ウイナーとなった。
「トレーニングセールへの上場用に落札され、ヤマダステーブルで乗り込まれていた段階で購入できました。スクリーンヒーローの初年度産駒が走り出したタイミング。ぜひ手がけてみたいと探していたんです。整ったバランスに見惚れましたね。育成時代もうるささが目立ちましたが、動きは上々。血統のイメージとは違い、バネや柔軟性にも富んでいます」
と、北出成人調教師は幸運な出会いを振り返る。
2歳5月に栗東へ。当初より楽々と動けた反面、精神面が幼かった。ゲート試験を合格するまでに、6週間も練習する必要があった。
「枠入りや駐立はスムーズなのに、恐怖心があって出ようとしないんです。他馬の動きにも過敏。ただし、覚えるのに時間がかかるだけで、人に反抗したりはしません。キャリアを積みながら、少しずつレースに慣れてきました」
7月の中京、芝1600mでデビュー。馬っけを出して集中できず、5着に終わったとはいえ、終いの伸び脚は光った。小倉で迎えた2戦目(芝1800m)も出遅れたものの、豪快に追い込んで初勝利。いちょうSは6着だったが、メンバー中で最速の上がり(3ハロン33秒5を駆使している。ハナに立ち、脚がたまらなかった萩S(3着)にしても、好スタートを切れたのは収穫だった。
「いちょうS以降は体を減らし、テンションも上がっていました。東京スポーツ杯2歳S(7着)は直線で前がふさがり、完全に脚を余しましたしね。年明けまで間隔を開け、ひと回りたくましくなりました。もともと好タイムをマークしていましたが、気持ちに余裕が出て、フォームに安定感を増した実感がありましたよ」
プラス12キロの体重で臨んだシンザン記念。折り合いの課題もクリアでき、大外からきっちりと抜け出した。
「前走直後、武豊騎手も悔しさをにじませ、『ぜひ次も乗せてほしい』と。2度目で手の内に入れ、しっかり結果を出してくれました。距離が延長された弥生賞(4着)の内容も上々。成長する余地もたっぷり見込んでいましたね」
だが、NHKマイル(12着)は直線で前が壁になり、不完全燃焼。ダービー(8着)へも駒を進めたうえ、リフレッシュを挟んだものの、なかなかスタートが決まらず、レース運びは粗削りなままだった。リゲルSや都大路S、豊明Sで2着に迫りながら、4歳秋に長岡京Sを勝利するまで13連敗を重ねてしまう。
5歳シーズンは、洛陽S、カシオペアSの2着が最高着順。しかし、6歳になっても、洛陽S、大阪城S、六甲Sと3戦続けて2着したうえ、スワンSでも3着に食い下がる。そして、キャピタルSでは無念の14連敗にピリオドを打った。
それでも、グァンチャーレ(豚頬肉の塩漬け。スパイスやハーブを刷り込み、熟成させる)の食べごろは、洛陽Sに優勝したラストイヤー。マイラーズC(2着)、さらに安田記念(4着)と健闘して、競走生活を締めくくった。
「初のダービー出走をかなえてくれた恩馬。長く厩舎を支えてくれました。感謝するしかありません。次の夢は産駒を手がけることです」
イーストスタッドで種牡馬入り。この先も厳しい戦いが待ち受けているが、前評判以上の味わい深さを発揮するに違いない。