サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
クロスクリーガー
【2015年 レパードステークス】勇敢に進撃する十字軍の若き戦士
HBA2歳トレーニングセールにて840万円で落札されたクロスクリーガー。曽祖母ラージャズディライト(米G2・デルマーデビュタントS)に連なるファミリーであり、母ビッグクィーン(その父ブライアンズタイム、地方で1勝)の半兄に日経賞を制したユキノサンロイヤルがいる。
父はアドマイヤオーラ。産駒がデビューした矢先に急逝したのが惜しまれるが、G1を6勝したブエナビスタの半兄にあたる良血らしく、産駒の勝ち上がり率は優秀だった。同馬はアルクトス(プロキオンS、南部杯)、ノボバカラ(かきつばた記念、プロキオンSなど重賞4勝)と並び評される代表格である。
「公開調教でも反応の良さが際立っていましたね。ただ、負担がかかりやすい肢勢や爪のかたち。栗東への移動後は慎重にケアしながら、じっくり調整を進めました。そんななかでも、追い切りは十分に動け、初戦からやれそうな手応えがありましたよ。あんなに離すなんて、びっくりしましたが」
と、庄野靖志調教師はデビュー当時を振り返る。
好位から抜け出し、9月の阪神(ダート1800m)で新馬勝ち。2着とは2秒1もの差が開いた。2戦目は芝の黄菊賞へ。6着に終わる。
「体が柔軟ですし、フットワークはシャープ。通常のダート巧者とはイメージが違います。あの一戦に関しては、一度使われてテンションが上がっていたのが響きましたね。そろっとなだめて乗り、後方の位置取りに。脚は使っています」
砂戦線に戻った樅の木賞を豪快な差し切り。初の長距離輸送に気持ちを高ぶらせながらも、ヒヤシンスSも粘り強く3着に踏み止まった。
「もともと素直で扱いやすい個性。経験を積みながら、落ち着きを増してきました。伏竜Sはクビ差の辛勝でしたが、最後まで余裕がありましたから。ジョッキー(岩田康誠騎手)も、『これでホームグラウンド(出身の園田競馬場)の重賞を狙える』って、自信満々でしたよ」
初のタイトルを手にしたのが兵庫チャンピオンシップ。馬なりのまま、楽々とハナに立ち、主導権を握る。直線手前でゴーサインが送られると、後続を置き去りにした。最後は流しただけでも、2着に9馬身。レース史上、最大着差での圧勝劇だった。
「安心して観ていられましたね。ゲートが上手。楽々と先手を取れるうえ、どんなコースでも器用に立ち回れるレースセンスが持ち味です。夢はふくらむ一方でした」
ジャパンダートダービーでもスローの逃げが打てたが、決め手で優るノンコノユメには絶好の展開に。2着に敗れた。陣営はレパードSでの巻き返しに燃える。
ここでは他馬の出方をうかがい、前半は好位で脚を温存。ペースが緩んだ向正面で2番手グループに押し上げ、4コーナーでは逃げ馬に競りかけていった。自ら勝ちにいく厳しい展開のなか、粘り強く抜け出し、世代で屈指の実力を改めて証明した。
依然として底を見せず、秋以降の躍進は必至に思えた。ところが、思わぬ悲劇が。放牧先で「X大腸炎」(急性出血性大腸炎。血液が著しく濃縮し、脱水状態となる。原因が不明のため、『X』と名付けられている)を発症。あっけなく息を引き取った。
道半ばにして、突然、途切れてしまった天才ランナー。それでも、多彩な魅力がクロスオーバーされた若きクリーガー(ドイツ語で戦士)の記憶は、いつまでも多くのファンの胸に生き続ける。