サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
グレープブランデー
【2013年 東海ステークス】苦難を芳醇な味わいにかえた雄健なチャンピオン
2歳9月のデビュー(阪神のダート1800mを2着)以来、ジャパンダートダービーでG1の勲章を手にするまで8戦4勝、2着が4回と、決して崩れなかったグレープブランデー。様々なカテゴリーに一流馬を送り出したマンハッタンカフェの産駒であり、母ワインアンドローズ(その父ジャッジアンジェルーチ)は全5勝のうち4勝を砂戦線でマークした。その半弟にはタヤスエトワール(ブリーダーズゴールドCを3着)、したマルカベンチャー(東京盃3着)らがいる。
「もともと父らしい立派な馬体。通常のダート巧者とは違い、柔軟性も兼備してフットワークが大きいのも特徴です。楽々と加速でき、乗り手の体感以上にタイムが出てしまう。明らかに緩さが目立った状況なうえ、体質も繊細で、皮膚病が出たり、脚が浮腫んだり。満足いく態勢でレースに臨んだことがないのに、あっという間に世代のトップに踊り出てしまったんです。末恐ろしい馬だと感心させられましたよ」
と、安田隆行調教師は若駒当時を振り返る。
ところが、3歳9月の調教中に右前脚の蹄骨を骨折。予想以上に回復は早かったとはいえ、10か月間の休養を強いられた。ブリリアントS(15着)でカムバック。一戦ごとに状態を上げ、3戦目の阿蘇Sで久々の勝利を収める。シリウスS(3着)、みやこS(6着)を経て、JCダートに駒を進め、5着と底力を示した。
「まだ体調が本物でなく、毛艶がひと息だったのに。5歳シーズンはトップを狙えると確信しましたね」
東海Sでは15番枠を引き、後ろめにポジションとなったが、直線の伸びは目を見張るものがあった。3馬身差の快勝。鮮やかに復活を遂げる。
「すっかり芯が入り、一段とパワーアップ。以前は内弁慶で環境の変化に弱かったのですが、つらい時期を乗り越えたことで、精神的に強くなり、直前でも攻めを手控える必要がなくなったんです。レース当日も無駄なことはせず、きちんと集中できるように。長期のブランクもプラスに転じ、ぐっとたくましくなったグレープブランデーに感謝するしかありません」
いいかたちで前哨戦に勝てたうえ、中間も思いどおりに調整。フェブラリーSではJRAの舞台でもG1制覇がかなう。激しい攻防が繰り広げられたなか、旺盛な闘争心を爆発させ、豪快に突き抜けた。
「ピークの態勢で臨めましたよ。関東へ輸送すると10キロは減る馬。526キロ(マイナス6キロ)という体重も予想とぴったり同じです。ただ、距離の1600mに関しては、スペシャリストも揃っているなか、心配もありましたね。好スタートからうまく下げ、理想的なポジションで運べました。直線で外へ持ち出せたとき、これならいけると。ゴール前は鳥肌が立ちました」
しかし、右前の球節に骨折が発見され、再び8か月のブランク。心と体が噛み合わず、結局、以降は未勝利に終わったが、6歳時に武蔵野Sを3着、翌年のフェブラリーSに4着、エルムSでクビ差の2着、8歳になってからも根岸S(3着)、東京スプリント(2着)、コリアスプリント(3着)などで見せ場をつくっている。
9歳にして障害戦への転向を目指していたが、右前に繋靱帯炎を発症。生まれ故郷の社台ファームで乗馬となった。いまでは牧場の守り神的な存在。スタッフの騎乗技術を高めるのに、貴重な役割を果たしていくに違いない。