サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

グレイル

【2017年 京都2歳ステークス】幻の聖杯を探し求めた若き騎士

 セレクトセール(1歳)にて5600万円で落札されたグレイル。有馬記念やドバイシーマクラシックを制した底力を産駒に伝え、続々と大物を輩出したハーツクライが父である。母プラチナチャリス(その父ロックオブジブラルタル)は未勝利に終わったものの、同馬の兄姉にロジチャリス(ダービー卿CT)、グッドスカイ(新潟ジャンプS)がいて、曽祖母にシルバーレーン(仏G3・グロット賞、ブラックホークやピンクカメオの母)も名を連ねる筋が通ったファミリー。野中賢二調教師も、豊かな将来性を見込んでいた。

「もともと素質に関しては一級品。シルエットや皮膚の感触からも、オーラを放っていました。育成先のノーザンファーム早来でも、早くから動けましたよ。ただし、ヒザ下が長く、ハーツ産駒らしく前肢を外へ回した歩き。脚元への負担を考え、伸び盛りの時期に無理をさせたくはなかった。2歳秋の入厩後も、慎重に態勢を整えました。全身をスムーズに使い切れず、フォームのバランスも整っていませんでしたからね。手前替えもぎこちない。それなのにデビュー前、実際に跨ってみたら、こんな楽々と推進できるかと、イメージ以上の反応に驚きました」

 京都の2000mで迎えた新馬は生憎の不良馬場となったが、ラストでぐっと伸び、クビ差の接戦を凌ぐ。京都2歳Sに挑むと、一転した決め手比べに対応。ゴール寸前で計ったように差し切り、2戦目にして重賞制覇を飾った。

「筋力を高めていく途上にあり、まだまだ体が緩くて。完成度は明らかに低かった。それでも、心臓の強さが生きましたね。良なら切れると思っていましたが、直線に向いた時点でかなり差が開いていて、ラストは11秒台が3つ続く速い上がり。相手(2着はホープフルSに勝つタイムフライヤー)を考えても、非凡なポテンシャルは疑いようがありませんでした。幼さを残しているのに、器用さを求められるコースを克服。素直で賢い性格なんです。成長を待ちながら適切な対処を施していけば、いずれ大きなタイトルに手が届くと期待していたのですが」

 共同通信杯(7着)はエンジンがかからず、断然人気を裏切ってしまう。外枠が響いてポジションが下がり、ペースはスロー。直線で内を通った馬が上位を占めたなか、伸びない外を回った結果だった。

 しかし、スタートの遅さが改善せず、皐月賞は6着。ダービーも14着とほろ苦い戦いが続く。セントライト記念を3着しながら、菊花賞も10着。中日新聞杯では13着に沈んだ。このレースで捻挫し、7か月半の休養を経る。

 復帰初戦の福島テレビオープンは6着だったものの、オールカマーで3着に前進。インをさばいて鋭く伸びる姿に、本格化は近いと思わせた。ところが、右前に骨折が判明。症状は重く、療養中に天国へと旅立った。

 陣営の愛情に支えられ、懸命に聖杯(グレイル)を探し求めた若き騎士。本来であれば、壮大な英雄譚が展開していくはずだった。魂の平安を祈念したい。