サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
クリソライト
【2015年 ダイオライト記念】船橋のダートを席巻したパワフルな貴石
ノーザンファーム空港での育成時も豊富な体力を誇っていたクリソライト。2歳3月にはNFしがらきへ移動。5月になり、栗東に入厩した。気性面に若さをのぞかせながらも、学習能力も優秀だった。音無秀孝調教師も、早くから非凡な能力を感じ取っていた。
「母から手がけている愛着が深い血統なんだ。牝に出れば芝をこなせるけど、半兄のフォルトファーレン(2勝)はディープインパクト産駒なのにダート向きだった。よりスタミナやパワーが強調された配合だけに、出会った瞬間でも、たくましい雰囲気。気難しさがポイントとなる一族でも、普段の扱いに苦労はないあたりも心強かったね」
サンデーサイレンスの後継にあって、エスポワールシチー、スマートファルコン、コパノリッキー、ゴールドドリームをはじめ、砂戦線へ強豪を送り出しているゴールドアリュールが父。母クリソプレーズ(その父エルコンドルパサー)は3勝をマークした。その全弟にJCダートに勝ったアロンダイト。兄姉にも、シースルオール(5勝)、タンザナイト(3勝、ダンビュライの母、ブラックスピネルの祖母)らが居並ぶ。同馬の妹弟にあたるのが、マリアライト(エリザベス女王杯、宝塚記念)、リアファル(神戸新聞杯)、クリソベリル(ジャパンダートダービー、チャンピオンズC、帝王賞、JBCクラシック)。愛オークス馬となった曽祖母リーガルイクセプションに連なる重厚なファミリーだ。キャロットクラブにて総額3000万円で募集された。
ゲート試験を1回でパス。順調に追い切りをこなし、中京のダート1400mでデビューする。初の実戦にテンションが上り、ゲート入りを嫌がりながら、後方からよく伸びて2着。あせらずに休養を挟み、適距離の番組が増えるのを待った。
9月の阪神、ダート1800mを楽々と抜け出し、最後は流して5馬身差の圧勝。しかし、2勝目は意外と遠かった。プラタナス賞、もちの木賞、樅の木賞、黒竹賞と2着が続いた。
「どんな展開でも崩れず、それぞれ強さを示しての惜敗。キャリアを積むごとに競馬を覚えてきた。疲れなど見せなかったが、使い込むよりフレッシュな状態のほうが走れるタイプだと思えたし、流れを変える意味でもいったん放牧を挟むことにしたんだ。それが功を奏し、ようやく理想の競馬ができたよ」
狙い通りに阪神(ダート1800m)ではかつてない好スタートを決め、2番手からスパート。後続を7馬身も突き放した。強靭な末脚を駆使し、昇竜Sも順当に突破する。
「精神的に成長し、調教でもラストまでしっかり動けるようになってきたね。体が増加傾向にあったように、目一杯の仕上げをしたわけではなく、まだまだ上積みが見込めた」
次の目標はジャパンダートダービー。ここでも1番人気(単勝2・2倍)にふさわしいパフォーマンスを披露した。促して好位をキープすると、直線手前では先頭に並びかける。ひと追いごとに差を広げ、直線は独走。後続を7馬身も置き去りにした。
「内田博幸騎手は初騎乗だったが、『気楽に自分の競馬ができえすれば、結果は付いてくる』と声をかけた。それでも、いきなり挑んだG1の舞台だから、レース前は心配事ばかり頭が頭をよぎった。完璧に近い内容に、驚くしかなかったなぁ」
陣営の愛情に磨かれ、どんどん輝きを増したクリソライト(宝石の一種であり、母クリソプレーズと同様、秘めた才能を開花させるパワーストーン)。だが、古馬の壁は厚く、いざとなって気持ちが空回りするとも多かった。JBCクラシック(5着)以降、7連敗を喫したが、マーキュリーC(2着)で調子を上げ、日本テレビ盃を7馬身差で圧勝したものの、JBCクラシック(2着)、東京大賞典(8着)と人気を大きく裏切った。
5歳シーズンはダイオライト記念から始動。2周目の向正面で先頭に立ち、悠々と押し切った。船橋では無類の強さを誇り、これを皮切りに同レースの3年連続制覇を成し遂げることとなる。
「かかり気味になっても、長い距離で緩いペースとなり、もまれずに自分のリズムを守れたら渋太い。日本テレビ盃も同様だった。理想のスタイルを確認でき、その後につなげられたね」
この間にコリアCを優勝したのに続き、7歳時も再び遠征して2着。帰国後に左前に炎症を発症し、1年以上のブランクを経る。以降も3戦を戦い、浦和記念に3着したが、東京大賞典(11着)がラストランとなった。
全39戦を走り抜け、6つのタイトルを含めて9勝をマーク。2着は13回あり、JBCクラシックや帝王賞(2回)など、重賞での準優勝も8走に上る。引退後は韓国にて種牡馬となった。ぜひ現地で競馬発展の礎となってほしい。