サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

グランデッツァ

【2012年 スプリングステークス】黄金の世代に輝きを放つ壮大なポテンシャル

 社台サラブレッドクラブにて総額6000万円でラインナップされたグランデッツァ。イタリア語で偉大、雄大などの意味がある馬名通り、社台ファームでの育成時より垢抜けた好スタイルを誇っていたうえ、優れた体力も垣間見せていた。平田修調教師は、こう若駒当時を振り返る。

「1歳の初夏に出会った瞬間、雄大なスタイルにひと目ぼれしてしまった。牧場サイドの期待もひしひしと伝わってきたね。十分な乗り込みを消化し、2歳7月に函館競馬場へ。育成段階では気性が勝っているように映り、慎重に接していこうと考えていたのに、環境が変わっても落ち着いたままだった。10日後にはあっさりゲート試験をパスでき、無理なく出走態勢が整ったよ。それほど目立たなかった動きも、直前になれば評判馬に楽々と先着。やはりものが違うと思わせた」

 JRA総合リーディングサイアーを獲得した翌年(09年)にこの世を去ってしまったものの、サンデーサイレンスの後継では当時のエース格だったアグネスタキオンの産駒である。トップの座を固めたタイミングで種付けされた豊作の世代だった。

 母はアイルランド生まれのマルバイユ(その父マルジュ)。フランスのG1・アスタルテ賞に優勝した。イギリスの重賞でも入着。イタリアでは10勝をマークしている。祖母のハムバイも5勝した活力に富むファミリー。同馬のひとつ上の半姉に桜花賞を制したマルセリーナがいる。

 札幌の芝1800mでデビュー。惜しくも2着に敗れたが、のんびりしすぎ、出遅れたのが敗因だった。続く未勝利では、余力たっぷりに8馬身差のワンサイド勝ちを収める。

「がらっと変わったあたりは学習能力の高さだね。もともとのセンスが顕在してきた。もちろん、不安があれば使わないところだけど、札幌2歳Sへは中1週。現状維持に努めた結果だよ。緩んだ馬場にトモを滑らせ、走りにくそうだったのに、よく凌いでくれたと思う」

 馬なり中心の調整しか課していなくても、スムーズに好位をキープ。4コーナーで先頭に躍り出る。手前が変わらず、ふわっとソラを使いながらも、後に皐月賞などG1を6勝するゴールドシップの猛追を完封。堂々の重賞ウイナーに登り詰めた。

 早くもクラシック路線に乗れ、ゆったりしたローテーションを組む。ラジオNIKKEI杯2歳Sはゴール前で甘くなり、3着に敗れたとはいえ、内容としては上々だった。

 3か月間のリフレッシュを挟み、春シーズンはスプリングSより始動する。好位で脚をため、余力たっぷりに追走。直線入口ではディープブリランテ(2着)に寄られ、外を回るかたちとなったが、難なく抜け出した。

「フットワークが大きいので、重馬場になったのが不安だった。いったん2着馬に離されたのに、あんな脚を使えるなんて。改めて強さを実感したね。ただ、皐月賞(5着)は、さらに使い込まれた馬場で、やや重でもノメってしまって。外枠のロスも大きかった」

 1冠目を制したのはゴールドシップ。パワーを生かしたイン強襲が決まった。大目標のダービーも距離延長が堪え、ディープブリランテの10着。ここで左前脚に屈腱炎を発症するアクシデントがあり、1年9か月も沈黙することとなる。

「過度に負担がかかりすぎないよう、まずはダートで復帰させた。2回使っても反動がなかったことで、芝へ送り出したら、都大路Sを5馬身差のレコード勝ち。天才的な才能があっての結果だよ。安田記念(11着)に関しては、過酷な不良馬場で1番枠を引いてしまったのが敗因。函館記念(10着)も不本意な走りだったが、脚元のことを考えて栗東の坂路で仕上げ、前週に輸送した影響もあった。G1でも通用するはずなのに、復帰後はイレ込みがち。ほんと歯がゆかったね」

 毎日王冠(5着)を経て調子を上げ、マイルCSは3着に健闘。京都金杯(5着)、都大路S(2着)、鳴尾記念(5着)と善戦を重ねた。次のターゲットは七夕賞。荒れるハンデ戦であっても、ここでは格が違う。陣営も丁寧に態勢を整えた。折り合い面を考えれば、小回りの流れは好都合。満を持して抜け出すと、余裕の手応えのまま、ゴールに飛び込んだ。ところが、毎日王冠(11着)を走り終え、再び屈腱炎を発症。惜しまれつつターフを去った。

 種牡馬としては目立った活躍馬を残せず、5シーズンで引退。しかし、ゴールドシップ、ジェンティルドンナ、ジャスタウェイ、ホッコータルマエ、ストレイトガールらが居並ぶ黄金の世代にあって、グランデッツァが演じた卓越したパフォーマンスも、競馬史の銀河のなかで一等星の輝きを放ち続けている。