サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
クラリティスカイ
【2014年 いちょうステークス】青春のまっただ中で演じた澄み渡ったパフォーマンス
サウジアラビアロイヤルCは、ダノンプレミアム、グランアレグリア、サリオスといった優勝馬が後にG1ホースとなっている注目度が高いステップレース。前身のいちょうS時代も、エアグルーヴ、メジロドーベル、イスラボニータらが制した舞台である。オープン特別より新設重賞に昇格した第1回いちょうS(翌年よりサウジアラビアRCに名称変更)に勝ったのがクラリティスカイ。同馬は父クロフネに続き、NHKマイルCの父仔制覇を成し遂げることとなる。
松田国英厩舎で調教助手を務めていた当時、クロフネに跨った経験を持つ友道康夫調教師は、こう乗り味を表現する。
「背中に安定感があり、とても力強い。クラリティスカイも共通する魅力があり、ダートも走りそうな雰囲気を感じていました。それでいて、高速馬場に対応できたのがすごいところですよ」
母タイキクラリティ(その父スペシャルウィーク)は1勝のみに終わったが、祖母タイキダイヤがクリスタルCの覇者であり、タイキフォーチュン(NHKマイルC)、タイキリオン(ニュージーランドT)などを送り出している優秀なファミリー。ラジオNIKKEI賞やダービー卿CTを2着したクラリティシチーは、同馬の半兄にあたる。
「1歳で出会った当初でも、父らしくボリュームがあり、しっかりしたスタイル。体力面にも余裕があり、管理馬で一番早く、4月にはトレセン近郊(吉澤ステーブルWEST)へ移動しました。翌月の入厩後も順調そのもの。成長を妨げないよう、目一杯の調教を課していなくても、完成度は2歳馬離れしていましたね。おっとりした性格で、手がかかりません。学習能力も優秀。ひと追いごとに反応が上向いてきました」
7月に中京(芝1400m)で迎えたデビュー戦は、集中力を欠いて4着。翌週の同条件に連闘したものの、スタートで躓き、2着に終わった。
「小倉を使っても、すぐ勝てたでしょうが、夏場に消耗させたくはなかった。いったん放牧を挟んだ効果があり、体にメリハリが出ましたね。これなら、軽い芝でも動けると見ていました」
操縦性が高まり、追い出されてからの伸びもぐんと良化。9月の阪神(芝1800m)を鮮やかに突き抜ける。好位のインで巧みに折り合い、いちょうSを楽々と抜け出した。タイムはレコード。熾烈な2着争いを尻目に、2馬身の差を付ける完璧な内容だった。
「すぱっと切れるというより、長くいい脚を使えるタイプだけに、広々としたコースが合っている。朝日杯FS(3着)が阪神の外回りに移ったのは好都合でしたが、ハイペースに脚がたまらなくて。翌春に弥生賞(6着)、皐月賞(5着)と使っても、まだ緩いところも残っていました」
東京のマイルが最適との見解は、横山典弘騎手と一致。NHKマイルに照準を定める。好位で行きたかるのを我慢させ、じっくりと追い出しを待つ。直線で前が開いた瞬間にスパート。あっさりと前を捕えた。
「ジッキーも強気に乗ってくれ、理想的な位置取り。あとは交わすだけでした。前残りが心配でしたが、楽なレースでしたよ。間隔を詰めたほうがいいタイプ。皐月賞も状態は良かったとはいえ、また馬が進化していました」
ところが、以降は無念の19連敗を喫する。美浦に転厩し、京成杯オータムH(4着)、中山金杯(2着)、小倉大賞典(3着)などで能力を垣間見せながらも、復活の勝利は挙げられなかった。
それでも、青春のまっただ中で演じた一点の曇りもないパフォーマンスが忘れられないクラリティスカイ。澄み渡った大空へ、天高く飛び立った勇姿は、多くのファンの目に焼き付いている。