サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

クォークスター

【2010年 セントライト記念】父から受け継いだ超光速の決め脚

 3歳1月に迎えた中山の新馬(芝2000m)は、後にオークス馬となるサンテミリオンの2着に終わったものの、騎乗した柴田善臣騎手も「まだトモに緩さが残るのに、反応は上々。相当な器だね」と乗り味を絶賛したクォークスター。続く同条件の未勝利を豪快に差し切り、スター候補に踊り出た。

 内国産として51年ぶりとなるリーディングサイアーを獲得し、一時代を築いたアグネスタキオンが父。母フェスタデルドンナ(その父ヘクタープロテクター)はダートで1勝したのみだが、その半妹に桜花賞を2着したブルーリッジリバーがいる。同馬の兄弟にスカーレットライン(3勝)、 ファスナハト(3勝)ら。コンスタントに勝ち上がる母系だ。

 社台ファームで順調に乗り込まれ、2歳10月に美浦へ。ただし、蹄の弱さや浮腫みがちな脚元に配慮し、ゲート試験の合格後はいったん放牧を挟む。帰厩してからも丁寧に態勢が整えられた。初勝利時も8分程度の仕上げだった。

 きさらぎ賞は7着に終わったが、いきなりの相手強化に加え、スムーズすぎて脚がたまらなかったのが敗因。3月の中山(芝2000m)を2着した際も、直線の伸びは他を圧倒していた。中1週で芝1800mの自己条件を突破。皐月賞を除外され、プリンシパルSでダービーへ出走権を狙ったのだが、待ち構えていたのはルーラーシップ(クイーンエリザベス2世Cなど重賞を5勝)だった。2着に泣く。それでも、一戦ごとに中身が詰まり、順調な進歩がうかがえた。

 次のターゲットはラジオNIKKEI賞に定められた。後方から大外を回り、レースの上がりをコンマ9秒も凌ぐ34秒5の鋭さで強襲。だが、クビ差の2着が精一杯だった。

「スムーズな競馬ができなかった。向正面で外に出てきた馬がいて、接触しそうになった。控えるしかなかったんだ。アンラッキーとしか言いようがない」
 と、クレイグ・ウィリアムズ騎手は悔しさを隠そうとしなかった。

 夏場のリフレッシュを経て、セントライト記念に臨む。ヤマニンエルブが大逃げを打ち、縦長の隊列はなかなか縮まらずに直線へ。じっくり待機していた同馬だったが、3コーナーから押し上げ、ラストで測ったように捕えた。駆使した末脚は34秒0。ラスト3ハロンで3秒0もの差を逆転する驚愕のパフォーマンスだった。バトンを受けた藤岡佑介騎手も、満面の笑みを浮かべる。

「スタートで押したのですが、加速はひと息。腹をくくり、リズムを崩さないように乗りました。道中は速く流れてくれ、しめしめと思いましたよ。柴田善臣騎手からのアドバイス通り、感触よりも少し早めに仕掛けたんです。馬が行く気になったからは、すごい脚。素質が違いますね」

 さらなる飛躍が期待されたのだが、菊花賞(9着)のダメージは大きかった。結局、繋靭帯に見られた炎症は回復せず、引退が決まった。

 父から受け継いだ超光速の輝きを放ったのは一瞬だったが、クォークスター(超新星が爆発を起こした後に形成される天体のこと)の残像は鮮やかなまま、いまでも目に焼き付いている。