サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

クロフネサプライズ

【2013年 チューリップ賞】生き生きと蘇えるビッグサプライズ

 NHKマイルCで世代の最強マイラーに上り詰めたうえ、驚異のレコードタイムをマークしてジャパンCダートに圧勝したクロフネ。豊かなスビート産駒を産駒に伝え、芝・ダートを問わず、コンスタントに勝ち上がるのが特長であり、一昨年まで12年連続して総合サイアーランキングの10位以内を堅持した。スリープレスナイト(スプリンターズS)、カレンチャン(スプリンターズS、高松宮記念)、ホエールキャプチャ(ヴィクトリアマイル)、アエロリット(NHKマイルC)、ソダシ(阪神JF、桜花賞)をはじめ、牝に大物が多いのも特徴である。

 クロフネサプライズも、鮮烈なインパクトを残した一頭だった。田所秀孝調教師は、こう感慨深げに幸運な出会いを振り返る。

「生涯忘れられない宝物。当歳の秋に初めて見たときも、骨太でボリュームがあるスタイル。体力面がしっかりしていて、順応性も高いから、加藤ステーブルでの育成は順調そのもの。素直な性格でありながら、人が跨れば気合いが乗る。大きな夢を運んでくれた」

 母アイアンブリッジ(その父トニービン)は地方で1勝。同馬の従兄弟にシルクアーネスト(6勝、地方2勝)、マイネルラクリマ(オールカマー、京都金杯、七夕賞)がいる。

 2歳7月に栗東へ。スムーズに出走態勢が整い、翌月の小倉(芝1200m)でデビューする。4着に終わったとはいえ、外へもたれて追えなかったのが敗因であり、差はコンマ1秒しかなかった。中2週の同条件をハナ差で凌ぎ、連闘で小倉2歳S(9着)に挑んだ。

「直線で前が詰まり、悔いが残る一戦となったね。当時は実戦になると戸惑い、集中力もひと息だった。それが、りんどう賞(1着)をきっかけに、競馬を覚えてきたよ」

 ハナにこだわったわけではなく、自分のリズムに徹した結果だった。速力やパワーにも優れているが、フットワークが大きな同馬にとって、距離延長もプラスに働いた。

 阪神JFではクビ差の2着に食い込む。15番人気を覆すサプライズだったが、待機勢が上位を占めたなか、2番手から最後まで渋太く脚を伸ばしているのだから、実力は本物といえた。

「体重はプラス20キロだったけど、これは成長分。いったん近郊のワコーファームへ放牧に出して気持ちをリセットしたが、現地でも長めを乗り込んでいたし、まったく重め感はなかったよ。賞金を加算でき、マイルにもメドが立ち、将来に自信を深めることができた」

 再び英気を養ったうえ、チューリップ賞へ。好スタートを決め、すんなりハナに立った。スローペースながら突かれることもなく、リードを保ったままで直線に向く。ラスト2ハロンで10秒7と加速した時点で勝負あり。後続を3馬身半も突き放し、悠々とゴールに飛び込んだ。

「予定どおりに1か月前から時計をマークし、直前の動きも抜群。やれる手応えは十分にあった。それにしても、想像以上の走りだったね。経験を積めば、もっと良さが際立ってくると見込んでいたのに」

 向正面でかかり、早めに先頭に立った桜花賞も4着に健闘した。ただし、大逃げを打ったオークスは12着まで後退。レース後、左前のヒザを骨折していることが判明する。これですっかりリズムが狂い、11か月の休養を経た阪神牝馬S(8着)以降は浮上のきっかけがつかめない。

 そして、悲しいサプライズが。4歳秋の調教中に放馬して転倒。左前を開放骨折する重傷を負い、安楽死の処置が取られた。花の命は短かったけれど、才能を満開に咲かせた瞬間が生き生きと蘇ってくる。父譲りの速力やパワーは、いつまでも語り継がれていく。