サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

キングズガード

【2017年 プロキオンステークス】天国の恩師にガードされた晩生な王者

 9歳時のフェブラリーS(6着)まで47戦を消化し、8勝をマークしたキングズガード。2着が11走、3着も11回あり、常に堅実な末脚を発揮した。

 父は米GⅠ・ブルーグラスSを記録的な大差で逃げ切ったシニスターミニスター。重賞を現3勝しているインカンテーションを筆頭に、砂巧者を輩出している。母キングスベリー(その父キングヘイロー)は芝の短距離で3勝をマークした。生産者であり、オーナーでもある日進牧場が7代に渡って大切に育ててきたファミリーだ。

 5歳にて初のオープン勝ちを収めるまで、田中章博調教師(2016年7月に逝去)が管理。志半ばで天国へ旅立ったトレーナーも、出会ったころより大きな希望を託していた。

「爪のかたちや走法は明らかにダート向き。ただ、もともと小柄で成長も遅めでしたね。激しくイレ込んだりする若さもあって、BTCでの乗り込みもじっくり進められました。それでも、男馬らしく、簡単にへこたれない。精神的な強さを秘めていましたよ。普段は素直。調整に苦労はありません。使い出してからは飼い葉を食べ、体調だって安定していました」

 2歳10月、いったん栗東へ移動してゲート試験をパスしたのだが、放牧を挟んで成長を促す。翌春に帰厩すると、ひと追いごとに時計を詰め、京都のダート1400mでデビュー。出遅れて6着だったものの、ラスト3ハロンはメンバー中で最速だった。2戦目の阪神(ダート1400m)でクビ差の2着に追い込み、続く同条件を順当に勝ち切る。500万クラスの卒業に5戦を要したが、すべて3着以内にまとめた。12月の阪神では1000万下も連勝する。

「なかなか流れに乗れなくて。もっと前目で運びたくても、まだ子供っぽく、押すと嫌がりますからね。いざとなって内にもたれがちですし、すっと動けずに挟まることも多い。それでも、懸命にがんばっていますし、少しずつレースを覚えつつあるところ。コンスタントにキャリアを重ねたなかでも、だんだん体力が付いてきた実感があります。もうひと回り幅が出て、パワーが備わってくれば、重賞に手が届くと信じています」

 と、田中調教師が微笑んだのが忘れられない。妙見山Sでハナ差の2着したのをはじめ、以降も僅差に健闘。闘病生活を送るトレーナーの願いが通じ、2月の阪神(ダート1400m)、鳴門S、栗東Sと一気に3連勝を飾った。プロキオンSで3着に食い込み、エニフSを快勝。いよいよ本格化する。

 バトンを受けた寺島良調教師も、さらなる前進に並々ならぬ意欲を注いだ。あと一歩で勝てないレースを続けながらも、プロキオンSでついに「王者の楯」を手にする。はるか後方に置かれたとはいえ、じっくり進出するタイミングを探り、ロスなくインを追走。直線で前が壁になりながらも、なんとか外へ持ち出すと、断然の爆発力を駆使して、あっという間に先頭へ躍り出る。2着に2馬身の差を広げ、悠々とゴールに飛び込んだ。みごと期待に応えた藤岡祐介騎手は、こう声を弾ませる。

「開業してから、ずっと乗せてもらえた馬。厩舎サイドが左回りに対応できるように工夫した成果でしょう。展開的に内へ入れないと届かない。厳しいレースでしたが、持ち味を引き出せ、うれしくて仕方がありません」

 これが唯一の勲章となったが、南部杯(3着)、みやこS(3着)、黒船賞(2着)、かきつばた記念(2着)、黒船賞(3着)、みやこS(2着)など、晩年になっても上位を賑わす。骨折に見舞われなければ、さらに偉大な記録を伸ばしたに違いない。いつまでも忘れられない名馬である。