サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ギュスターヴクライ

【2012年 阪神大賞典】モンスターを怯ませた栄光への咆吼

 大きなどよめきに包まれた2012年の阪神大賞典。逸走しながら2着したオルフェーヴルの驚異的な強さが際立った一戦ではあったが、待望となる重賞初制覇を成し遂げたギュスターヴクライの性能も高く評価できる。

 典型的なステイヤーらしく、長丁場の緩急にもスムーズに対応。インの好位置で脚をため、直線で前が開くと力強くスパートする。怪物が迫るなか、ラストでは持ち前の勝負根性に火が点き、ぐいともうひと伸び。調教パートナーの佐藤淳調教助手は、こう声を震わせた。

「菊花賞の前、『競馬学校で同期だった池江泰寿調教師と疎遠になってもいいから、オルフェーヴルを負かす』なんて意気込んでいたのに、無念の除外。ようやく同じ舞台で戦えただけでなく、まさかここで夢がかなうとは。瞬時にぴゅっと動ける器用さには欠きますが、じわっと滑らかに加速。パワー満点ですよ。4ストロークエンジンの大型バイクみたい。おっとりした性格も長所です。ゲートから出していっても、決して引っかからないのが心強い」

 無敗のまま3冠を制したディープインパクトを有馬記念で迎え撃ち、日本調教馬としては唯一の先着を果たしたハーツクライのファーストクロップ。同馬の後を追って大成したジャスタウェイ(天皇賞・秋、ドバイデューティーフリー、安田記念)、ワンアンドオンリー(ダービー)、ヌーヴォレコルト(オークス)、シュヴァルグラン(ジャパンC)、スワーヴリチャード(大阪杯、ジャパンC)、リスグラシュー(エリザベス女王杯、宝塚記念、コックスプレート、有馬記念)、ドウデュース(朝日杯FS、ダービー)らと同様、豊富な成長力を秘めていた。

 母ファビラスラフイン(その父ファビュラスダンサー)は秋華賞に勝ち、ジャパンCを2着した名牝。祖母のメルカルが芝4000mの仏G1・カドラン賞の覇者という重厚な血脈である。

 社台ファームで基礎固めされ、2歳10月に栗東へ。当時は幼さが目立っていた。

「明らかに奥手だと思いました。立派な体を使えず、大味なアクション。フォームが伸び切っていましたね。それに気持ちにも余裕がありすぎて、突然、物見をするんです。驚き方がオーバーで、振り落とされることも。すぐにリラックスして、ひとりで厩舎に戻っていくのですが。乗る際に噛み付くくせがあり、腕に残ったキスマークがなかなか消えなかった」

 11月の京都(芝2000mを6着)でデビュー。阪神の芝1800mも走りに集中できず、10着に終わる。勢いが付いたのはゴール板を通過した後だった。続く芝2000mも6着。ここでものんびりスタートし、流れに乗れなかったが、直線の末脚に切れが加わってきた。

「もう少し時間がかかると思っていましたが、学習能力は優秀。だんだんすべきことがわかってきた実感がありました。じっくり乗り込んでいくうち、だんだんトモの筋力が強化され、無駄のないフォームに。馬体の張りも変りましたよ」

 14キロ減のすっきりしたスタイルとなり、1月の京都(芝2200m)を快勝。中団のインを上手に追走し、鮮やかに馬群を割った。調教の反応はますます上昇。先を見据えて、2月の東京では芝2400mを戦った。大外一気の豪脚を繰り出し、危なげない連勝を収めている。

 だが、3勝目は想像以上に遠かった。弥生賞(6着)はコンマ1秒差。窮屈な競馬を強いられて、青葉賞(4着)、白百合S(3着)と、あと一歩の詰めの甘さに泣く。

「どんなペースでも冷静に折り合える反面、なかなか集中力が高まらなかった。3歳秋も器用さに欠き、4戦連続して惜敗。それが、12月の中山(芝2500mを5馬身差で快勝)で急に目覚めました。肉体面に劇的な進歩があったわけではありません。美浦を経由しての長距離輸送が刺激になったとしか考えられない」

 ひと息入れた後、早春Sを連勝。ダイヤモンドSの2着にしても、展開が向かなかったものであり、次位をコンマ4秒も上回る34秒4の末脚を繰り出していた。

 天皇賞・春でも懸命に脚を伸ばしたものの、ペースを味方に押し切ったビートブラックの5着に終わる。秋緒戦の京都大賞典(3着)は2コーナーでは内ラチに接触する不運。アルゼンチン共和国杯(6着)では右前の屈腱を不全断裂する重傷を負い、早すぎる引退が決まった。

 手にした勲章はひとつだけでも、超一流のポテンシャルを垣間見せたギュスターヴクライ。魂の叫びが伝わってくるような熱いパフォーマンスは、いつまでも語り継がれる。