サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

カラクレナイ

【2017年 フィリーズレビュー】萌えいづるターフを鮮やかな深紅色に染めて

 レシステンシアによるG1制覇(阪神JF)をはじめ、順調に11勝の重賞タイトルを手にしている松下武士調教師。初となるクラシック参戦を果たし、伸び盛りのステーブルを勢い付けたのがカラクレナイだった。

 マイラーズCや中山記念を制しただけでなく、ムーランドロンシャン賞でも2着したローエングリンが父。ロゴタイプ(皐月賞などGⅠを3勝)の活躍により評価を高め、同世代ではヴゼットジョリー(新潟2歳S)も重賞ウイナーに輝いた。母バーニングレッド(その父アグネスタキオン)は1勝のみに終わったが、祖母が富士Sや中山牝馬Sに勝ったレッドチリペッパーである。

「1歳時に初めて見た時点でも、しっかりした馬体。山元トレセンでも順調にペースアップされ、昨年6月に入厩できました。ただし、まだ体質が繊細でしたので、ゲート試験の合格後は放牧へ。その間の成長には目を見張るものがありましたね。9月に帰厩したら、トモに筋肉が備わり、ぐんとたくましさを増していたんです。気性に激しさを秘めた母系でも、仕上げに苦労はありません。調教は無理なく動け、短期間で実戦を迎えられました」
 と、松下調教師はデビューまでの歩みを振り返る。

 京都の芝1400mでデビュー。大外枠から出遅れてしまい、4着に終わったものの、レースのラスト3ハロンを1秒2も上回る瞬発力(34秒4)を駆使した。11月の同条件でも、次元の違う決め手を披露。1馬身半差の楽勝を収める。

「パワーを兼備した個性。ローエングリン産駒らしく、長くいい脚が使えそうなイメージを抱いていたのですが、あんなに切れるとはびっくりしましたよ。さらに反応が良化し、一戦ごとの進歩は明らか。課題だったゲートが改善に向かっているように、学習能力も優秀でしたね」

 大外から鋭く突き抜け、万両賞を順当に勝ち上がる。そして、出遅れる不利を簡単に跳ね除け、フィリーズレビューで大外一気を決めた。

「スイッチの入り方が極端でパドックで一気にテンションを上げてしまう状況だったうえ、まだソエが固まらず、肉体的にも完成途上。そんななかで結果を残せたのは、非凡なポテンシャルの証明といえるでしょう」

 桜花賞も4着に健闘。距離が1ハロン延長され、切れが削がれる渋った馬場になりながらも、後方から懸命に脚を伸ばしている。NHKマイル(17着)は、1番人気を大きく裏切ってしまったが、ハイレベルな戦いが続いたうえ、関東への長距離輸送、左回りなど、未体験の環境に戸惑いがあった。

 以降も脚の使いどころに難しさを抱え、成績は激しく上下動したが、4歳時のシルクロードS(4着)でスプリント戦への適性を示す。5歳になり、バーデンバーデンCに臨むと、ついに久々の勝利を挙げた。繁殖入りが迫りながらも、オパールS、京阪杯、淀短距離Sと連続して3着。奥の深さを垣間見せている。

 若きトレーナーの意欲をまっすぐに受け止め、赤い気炎を上げたカラクレナイ。産駒たちも卓越した才能を発揮して、ターフに鮮やかな色彩を放つに違いない。