サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

カンパニー

【2009年 天皇賞・秋】ミラクルなフィナーレへと邁進した遅咲きのヒーロー

 2025年3月に引退するまでJRA通算996勝を積み上げた音無秀孝調教師。いったん調理師の職に就きながら、競馬へのあこがれが絶ちがたく、思い切って騎手の道へ進み、晴れてデビューしたのは25歳になってからだった。そんな遅咲きの歩みは、最高傑作であるカンパニーと重なるように思える。

 ミラクルアドマイヤが送ったミラクルな逸材。ただし、血統背景は優秀であり、父の兄弟にフサイチコンコルド(ダービー)、アンライバルド(皐月賞)がいる。母ブリリアントベリー(その父ノーザンテースト)は3勝をマークした。同馬の半兄にレニングラード(アルゼンチン共和国杯)。ヒストリカル(毎日杯)は半弟にあたる。祖母が日本生産界に偉大な足跡を残すクラフテイワイフ(米7勝)。直仔のJRA勝利数は50勝を上回る。

 3歳1月に京都の芝1600mでデビューしたカンパニー。鮮やかに差し切り勝ちを演じた。きさらぎ賞は折り合いを欠いたものの、あざみ賞、ベンジャミンSと連勝し、早くから頭角を現す。

 それでも、ラジオたんぱ賞(2着)、京阪杯(2着)、中山記念(2着)など、あと一歩で勝ち切れない。しばらくは音無師の嘆きをたびたび耳にすることとなる。

「もともと期待が高く、夏以降はすべてグレードレースを走らせてきた。でも、しばらくは不完全燃焼が多くて。なぜかスローペースになることが多いんだ」

 4歳時の安田記念も5着に健闘。京阪杯では、ついに初のタイトルに手が届く。不得手と思われた重馬場を克服し、大阪杯を制覇。宝塚記念も5着まで追い上げた。

「G1でも通用するはずなのに、どうも運がない。安田記念(11着)は向正面で躓く不利。接触した毎日王冠(5着)に続き、天皇賞・秋(16着)では隣の馬に影響されて暴れ、外枠発走になった」

 翌夏の関屋記念では圧倒的な強さを発揮。大外を突き抜け、後続を3馬身半も突き放す。不利を跳ね除け、天皇賞・秋は3着。マイルCS(5着)もメンバー中で最速の上がり(3ハロン33秒7)を駆使している。

 東京新聞杯(4着)を使って調子を上げ、中山記念へ。ここでは驚きの先行策に打って出た。逃げ馬を見ながら絶妙のペース配分。ラストも脚色は鈍らず、コンマ3秒差の快勝を演じた。これをきっかけに横山典弘騎手との黄金コンビが定着。さらに飛躍することとなる。

 マイラーズCを連勝。スタミナを要する馬場となった宝塚記念は8着だったが、毎日王冠(5着)、天皇賞・秋(4着)、マイルCS(4着)と堅実に歩む。8歳時の中山記念も、2番手からの押し切りに成功した。

 マイラーズC(2着)、安田記念(4着)、宝塚記念(4着)を経て、秋シーズンにますます充実。毎日王冠に臨むと抜群の決め手が炸裂。断然人気を背負ったウオッカを交し去り、完勝を収める。次のターゲットは天皇賞・秋。担当の澤晴康調教助手も、うれしい変化を感じ取っていた。

「ようやく古馬らしくなりましたね。以前は身体を触られるのが大嫌い。神経質な面が目立ちました。相変わらず太らない体質でも、飼い葉はよく食べてくれますし、もう扱いに困ることはありません。乗り味も変わってきましたよ。加速するとバネがすごい。レース後に疲れが癒えるのも早くなりました」

 ここでも主役はウオッカであり、5番人気(単勝11・5倍)に甘んじたが、スローの瞬発力比べとなったなか、中団待機からレースの上がりをコンマ8秒も上回る3ハロン32秒9の鋭さを爆発させた。スクリーンヒーロー、ウオッカにコンマ3秒の決定的な差を付け、連勝を飾る。「1800mのビッグレースがあったら」と話すトレーナーの想像を超え、史上初となる8歳でのG1制覇がかなった。

 ラストランがマイルCS。35戦目にして6回目となる1番人気(単勝2・3倍)。しかも、生涯を通して最も支持を集めた。中団を楽な手応えで追走すると、直線も危なげなく抜け出しに成功。長きに渡った陣営の鬱憤をすっきり晴らす、最高の締めくくりだった。

 横山ジョッキーも、こう健闘を称える。
「すばらしいのひと言。前走も最高のデキだったけど、それ以上の雰囲気だった。テンでポジションを取りにいき、あとは思い描いた通り。不利さえなければという感じだったよ。文句ないかたちで有終の美。馬をほめてあげたい」

 2018年の暮れ、腎不全のためにこの世を去ってしまったとはいえ、産駒ではウインテンダネス(目黒記念)が重賞勝ちを果たし、後継種牡馬となっている。ぜひ貴重なサイアーラインを未来へとつなげてほしい。