サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ガンコ
【2018年 日経賞】頑固に貫き通した円熟の職人芸
宝塚記念を制したうえ、凱旋門賞で2着に健闘した実績を考えれば、決して種牡馬として成功したとはいえないものの、数々の個性派を送り出しているナカヤマフェスタ。バビット(ラジオNIKKEI賞、セントライト記念)と並ぶ代表格であり、初の重賞を手にした産駒がガンコだった。
母シングアップロック(その父シングスピール)は地方で2勝。独オークスを制した4代母アンナパオラに連なるファミリ―であり、近親には多数のグループレース勝ち馬がいる。
「依頼を受けた1歳時から、しっかりした馬体をしていましたね。うるさい面も見せますが、走ることには前向き。2歳5月に栗東へ移動でき、淡々と調教をこなせました。コンスタントに使っても、大きなトラブルはなく、体力的な消耗も少なかった。でも、あんなに出世するなんて、とても想像していませんでしたよ」
と、松元茂樹調教師は若駒当時を振り返る。
函館の新馬(芝1200mを2着)以来、4戦した芝で掲示板を確保。だが、瞬時の鋭い脚に欠けるのが弱みだった。ダートへ目を向けて3戦目(京都のダート1400m)に未勝利を脱出。すっと流れに乗れない不器用さを抱えながら、昇級後もたびたび上位に食い込む。4歳2月の京都(ダート1800m)、7月には函館(ダート1700m)で早めの進出がかない、勝利を収めた。
「1000万に昇級して、2戦とも二桁着順。それで試しに障害練習を課したら、なかなかセンスがいい。転向を見据え、長めの芝を走らせてみようと、江坂特別に送り出したんです。少頭数でなければ、登録する気もなかったのに、驚きましたね。直線入り口で先頭に立ち、セーフティーリードを保ったまま、ゴールを駆け抜けてしまうなんて」
秀逸なパフォーマンスに後押しされ、日経新春杯に格上挑戦。一転したスローペースになっても、粘り腰を発揮する。ハンデの恩恵があったとはいえ、初体験のグレードレースで3着に踏み止まった。3番手で折り合ってスパートのタイミングを計り、余力たっぷりに松籟Sを押し切る。後続に3馬身半の差を付ける完勝だった。
「気分良く走れ、スタミナを存分に生かせる条件が見出せただけでなく、心身の充実も著しかった。常にやる気があふれていて、楽々と好タイムをマーク。いい筋肉が備わり、体重も増加傾向。以前とは調教の迫力が違います。すっかり一皮むけ、持ち味が噛み合い始めた実感がありましたよ」
次のターゲットは日経賞。1周目の2コーナーでまくってきた馬にハナを譲ったが、離れた2番手で折り合いに専念。早めに先頭に踊り出て、渋太く脚を伸ばす。豪華メンバーを寄せ付けず、ついにタイトルの奪取がかなった。
「出入りの激しい流れでも我慢でき、しびれる強さ。重厚な血脈だけに、こちらの想像を超えた奥深さを秘めていました。翌年2月に定年が迫ったタイミングなのに、大きな夢を運んでくれ、馬に感謝するしかなかったですね」
結局、これが最後の勝利となったが、松元調教師のもとで、天皇賞・春(14着)やジャパンC(12着)にも挑戦。武英智厩舎に転厩のうえ、さらに3戦を消化した。思い出の日経賞(14着)がラストラン。乗馬となり、静かに余生を送っている。
頑なに自分のポジションを守り通したガンコ。円熟の職人芸が忘れられない。