サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アスカノロマン

【2016年 東海ステークス】輝かしい栄光へとつながるロマンチックな巡り会い

 2歳の夏に新馬(小倉の芝1200m)で4着したものの、しばらくソエが固まらず、芝の2戦を大敗していたアスカノロマン。ところが、3歳1月の京都、ダート1800mで一変する。6馬身差のワンサイド勝ちを収めた。

「初めて跨り、いきなり勝てました。大人しい性格で乗りやすい。もともとスタートが速く、折り合いも付き、軽く仕掛けただけで先頭へ。ラストまで手応えは楽でしたよ。それ以前との比較はできませんが、血統的にも適性が高い条件。馬も気持ち良く走れたのでしょう。でも、明らかに体が緩く、頼りない乗り味。あれほど離している実感はなかったですね」
 と、主戦を務めた太宰啓介騎手は、幸運な出会いを振り返る。

 天皇賞・秋、安田記念、香港Cをはじめ、芝のGⅠを4勝しただけでなく、フェブラリーSなど、砂路線でも6つのタイトルに輝いたアグネスデジタルが父である。ダート色が濃いファミリー。母アスカノヒミコ(その父タバスコキャット)は1勝のみに終わったが、メイショウエイシ(4勝)、タマモコンチェルト(3勝)の半妹にあたる。

 500万クラスを2着、4着と歩んだところで、太宰騎手に手綱が戻り、4月の京都を鮮やかに逃げ切る。鳳雛Sもしっかり粘って2着。濃尾特別では古馬の強豪相手に2馬身半の差を付けた。もまれながらも、レパードSも5着に健闘する。

「いつも真面目にがんばってくれ、あの時点でも想像をはるかに超えた内容。状態さえ整えば、重賞でも通用すると感じ始めましたよ。ただし、暑さは苦手ですし、3歳後半になっても体質に弱さを抱えていて、レースのダメージが尾を引く状況でした」

 それでも、久々の観月橋特別を突破し、オープン入りを果たす。みやこS(10着)後にリフレッシュを挟み、アルデバランSに優勝。だが、調子は長続きせず、ダイオライト記念(3着)、アンタレスS(14着)、平安S(15着)と成績を下げてしまった。

「半年間の休養効果があり、ずいぶん幅が出ました。どっしり安定感が出て、きちんと負荷をかけられるようになりましたね。動きも力強くなり、当時は調教でのいい状態のまま、実戦へ向かえたのが心強かった」

 みやこS(4着)より再始動し、ベテルギウスSは2着に前進。そして、東海Sで会心のパフォーマンスを演じる。ジョッキーにとっては、3年5か月ぶりとなる重賞制覇。右手を突き出しながら、栄光のゴールへと飛び込んだ。

「ついガッツポーズをしてしまいました。早めに勝利を確信する余裕がありましたので。2番手の位置取りも、リードを広げるタイミングも、すべてイメージ通りにいきましたよ。担当(佐藤剛厩務員)は、かつて太宰厩舎で苦楽をともにした方。不思議な縁ですし、喜び合えたことがうれしくて。こんな達成感をもっと味わいたいと、新たな意欲がわいてきました」

 初となる東京のマイル、しかも、レコードタイムでの決着にも対応して、フェブラリーSは3着に食い下がった。これまでの先行策とは違ったかたちで運び、ノンコノユメ(2着)に次ぐ3ハロン34秒9の伸びを駆使する。

「スタート次第でレースを組み立てようと思っていました。ポジションを取りにいけなかったのですが、それも想定内。リズムに乗って脚をためようと、頭を切り替えたんです。アルデバランSで控えて勝った過去もありますからね。直線は長くいい脚を駆使。輸送しても体が減らなかったように、だんだん中身が強化され、着実に力を出せるようになりましたよ。また一緒に大きな舞台へと進み、ぜひ結果を残したいと心に誓ったのですが」

 アンタレスSを2着したうえ、平安Sに優勝。だが、帝王賞(6着)、南部杯(4着)と結果を残せず、いったんコンビを解消。9戦を経て、再び太宰騎手とともに復活の勝利を目指したものの、なかなか5歳時の勢いは取り戻せなかった。

 8歳時のマーチS(11着)まで連敗を重ねたところで引退が決まり、乗馬となって静かに余生を送っているアスカノロマン。ただし、鞍上と気持ちをひとつにして、みごとに勝ち取った勲章は、いつまでも燦然と輝き続ける。