サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
カワキタエンカ
【2018年 中山牝馬ステークス】一途な気持ちが込められた艶に燃ゆる歌舞
カワキタエンカは、浜田多実雄調教師に初となるタイトルをプレゼントした特別な一頭。母カワキタラブポップ(その父クロフネ)は1勝したのみだが、祖母ローズレディがダート短距離で4勝している。オーナーの夢が託され、配合相手にはリーディングの座を不動のものとしていたディープインパクトが選ばれた。
「依頼を受けた当歳時は小柄で線が細く、いかにもデリケート。サイズはすくすく育ちましたが、№9ホーストレーニングメソドで乗り進めても、腰の甘さが目立ちましたよ。ゆっくりした成長に合わせ、丁寧なステップを踏む必要がありました」
と、トレーナーは若駒当時を振り返る。
2歳夏に札幌でゲート試験まで進めたうえ、トレセン近郊の吉澤ステーブルWESTへ移って体力強化を図る。それでも、栗東へ移動した当初から反応は上々だった。京都の新馬(芝1800m)に臨むと、いきなり抜群の勝負根性を発揮。渋太く競り勝った。
「テンションを上げがちな面に配慮し、ソフトな仕上げに努めていたとはいえ、やれば動ける感触がありました。もともとスタートは速いですし、ディープ産駒らしいバネを兼備。癇性のきつさも、実戦でプラスに働きます」
千両賞を3着。チューリップ賞も5着に食い下がった。君子蘭賞を堂々と押し切り、桜花賞(7着)へと駒を進める。
初の左回りに外へもたれ、三面川特別は2着だったものの、待機勢に有利な流れを跳ね除け、ローズSで2着を確保。ハイラップを刻みながら、秋華賞を5着に粘った。粒揃いの世代にあっても、見逃せない才能を示す。
「4か月の休養を経て、また一歩前進。G1でも自分のスタイルを守り通し、交わされても止まらなかった。折り合いを教えるべく、短い距離は避けて大切に使ってきたなか、マイルから2000mまで対応。完成度を考えれば、想像以上にがんばっています。やる気を損ねず、走るたびに力を付けていく。真面目さを保ち続けているのが心強かったですね」
しっかり英気を養ったうえ、洛陽Sで復帰。オーバーペースが堪え、直線であっさり10着まで後退したものの、陣営は一走しての変わり身を見込んでいた。中山牝馬Sでも果敢にハナを主張し、マイペースに持ち込む。十分に息が入り、ラストもひと伸び。鮮やかな逃げ切りが決まった。
「先行力が生きるコース形態。デビュー戦や秋華賞が重だったように、馬場状態(当日はやや重)も問いません。中山の急坂だって、むしろプラスに生かせると見ていましたよ。一所懸命になりすぎる傾向に関しても、ソフトな仕上げを工夫して改善されつつあり、さらに長所を伸ばしていける手応えがありました」
福島牝馬Sもクビ差の2着に踏みとどまる。しかし、ヴィクトリアC(14着)以降、なかなか体調が上向かず、気持ちも空回り。翌春に中山牝馬S(12着)、福島牝馬S(9着)まで歩んだところで、繁殖入りが決まった。
軽快なスピードや一途に全力を振り絞る闘志は、きっと産駒たちに受け継がれる。鮮烈な歌舞の再演を楽しみに待ちたい。