サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
カレンミロティック
【2013年 金鯱賞】変幻自在に名演を重ねた誇り高きバイプレーヤー
2歳11月、京都の芝1800mでデビューしたカレンミロティック。出遅れながら、メンバー中で最速となる33秒7の上りで4着に追い込む。さらに4着を2回続け、2月の阪神、芝1800mを鮮やかに差し切った。持ち乗りで手がけた高阪陽祐調教助手(平田修厩舎)は、こう若駒当時を振り返る。
「この血統らしく、もともと乗り味はすばらしかったですよ。体幹がしっかりしていて、フォームにぶれがありません。ただ、うるささは半端でなくて。なかなか思うように調整できなかった。ゲート練習の段階でも興奮し、すごい馬っけ。坂路コースの入り口でラチを2本壊した前科もあります。それでもケガする前で悪さをやめる賢さもあり、いったん走り出せば真面目すぎるくらいに突き進むのですが。誇り高く、人に媚を売らない性格なんです」
有馬記念、ドバイシーマクラシックを制したうえ、種牡馬としても幾多の名馬を輩出したハーツクライのファーストクロップ。アドマイヤラクティ、ウインバリアシオン、ギュスターヴクライらと同期となる。母スターミー(その父エーピーインディ)は2勝をマークした。祖母が仏オークスを制したカーリーナ。同馬の半姉に京都牝馬Sに勝ち、ヴィクトリアマイルでも2着したヒカルアマランサスがいる。
500万下を5着、8着したところで、半年間のリフレッシュへ。10月に新潟の芝2000mで再スタートを切り、いきなり2勝目を挙げる。昇級後も4着、3着、3着と健闘したものの、気性の激しさは一向に解消せず、去勢手術を施すこととなった。
「いまとなれば、種牡馬の道が絶たれたのが悔やまれますが、気持ちが優しくなったのは確かです。さすがに一変とまではいかず、牝みたいに蹴る仕草が目立つようになったとはいえ、もう威嚇してくることはない。扱いが楽になりました」
紫野特別を3着した後、捻挫による休養を余儀なくされたが、4歳9月の阪神(芝1800m)で順当に3勝目。清滝特別(2着)を経て、近江特別を勝利する。準オープンに入ってからも、逆瀬川S(3着)、御堂筋S(2着)、名古屋城S(2着)、下鴨S(2着)と、コースや距離を問わずに接戦を演じた。垂水Sでは2番手から楽々と抜け出し、5馬身差の圧勝。開幕週の高速馬場だったとはいえ、タイムは1分44秒5のレコードである。
「無駄肉が削がれ、きりりと引き締まったスタイルに。精神面もひと皮むけましたね。前半からきつくハミを噛む傾向が薄れ、堅実に力を発揮できるようになった。直前の調教からメンコを外した効果もあり、終いまで気を抜かなかったのも収穫です。相手が強化されても、スピードの持続力で勝負できる手応えがありましたよ。続く札幌日経オープン(8着)はオーバーペースに泣いたとはいえ、長めの条件でもやれるスタミナも際立ってきました」
金鯱賞では、いよいよ重賞に初挑戦。いきなり晴れ舞台で主役を演じることとなる。離れた2番手で折り合い、楽な手応えで先頭へ。直線は内にもたれながらも、ラストまで粘り強く脚を伸ばし、2着のラブリーデイを2馬身半も突き放した。
「ずいぶん怖い思いもしましたが、この馬のおかげでいろいろなことを学びました。使うたびに新たな一面を見せてくれるのがうれしくて。ハーツ産駒らしく晩生。晴れてタイトルホルダーになっても、まだまだ隠された部分があるように感じていましたね」
以降はパイプレーヤーとして歩んだものの、有馬記念で6着に善戦。翌春の中山記念(14着)は持ち味を発揮できなかったが、大阪杯(4着)、鳴尾記念(4着)と健闘する。宝塚記念では手応え以上の渋太さで2着に食い下がり、確かな性能をアピールした。6歳シーズンは香港ヴァーズ(5着)へも駒を進める。
翌春は阪神大賞典を4着した後、天皇賞・春を3着。宝塚記念(13着)は期待に反したが、京都大賞典で3着に浮上する。天皇賞・秋(13着)、ジャパンC(15着)、阪神大賞典(6着)と歩み、8歳時の天皇賞・春(2着)ではキタサンブラックとハナ差の接戦を演じた。
その後は成績が下降したとはいえ、オーストラリア遠征(メルボルンCを23着)も経験。9歳にしてアルゼンチン共和国杯に5着、翌春は阪神大賞典を5着するなど、天皇賞・春(16着)でのラストランまで全43戦を堅忍不抜に戦った。
引退後は乗馬となり、静かに余生を送っているカレンミロティック。心に残る演技を称えるとともに、いつまでも健康で、そして、幸せにと願うばかりである。