サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
カデナ
【2017年 弥生賞】馬と人との絆を大切に守り抜いて
セレクトセール(当歳)にて3500万円で落札されたカデナ。母フレンチリヴィエラ(その父フレンチデピュティ)はアメリカで4勝したうえ、ダート6ハロンのG3・サラブレッドクラブオヴアメリカSを3着した快速馬である。同馬の兄姉にスズカコーズウェイ(京王杯SC)、クイーンリヴィエラ(3勝)ら。半弟のテンダンスも、東京スポーツ杯2歳Sを3着した。日本競馬の至宝であり、幾多のスターホースを輩出したディープインパクトが配されて誕生。中竹和也調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。
「魅力的な血統。ただし、セールで注目する人は少なかった。小柄でしたし、そう見栄えがしなくて。そんなななかでも、オーナーサイドのマネージャーが『体は鍛えて立派になるが、上腕部はあまり変わらない』と話してくれたのがサゼッションとなって、重点的に前腕を観察していたんですよ。ボディーの割りに目立って太く、いかにもアンバランスではありましたが、いずれちょうど良く育つのではと想像しました」
大山ヒルズで順調に乗り込まれ、4月には栗東へ。ゲート試験まで進めたうえ、放牧を挟む。8月の帰厩後は短期間で出走態勢が整った。
「春当時は体力不足で、動きが地味。ところが、帰って来たら、がらっとたくましさを増していました。こうなってほしいと思い描いたスタイルに。トモに筋肉が備わり、楽々と推進。ディープらしいバネや伸びやかさも際立ってきましたね」
9月の阪神(芝1600m)で迎えた新馬を2着。鋭く伸びながら、クビ差の惜敗だった。続く芝1800mをきっちり差し切る。馬群をさばくのに手間取り、百日草特別は2着だったが、ゴール前の伸び脚は断然だった。
「あのレースも上がりは最速。負けた2戦も不運だっただけです。若いだけにやんちゃでしたが、教えたことを素直に吸収。仕上げに苦労はありません」
そして、京都2歳Sへ。次位をコンマ5秒も凌ぐ3ハロン33秒6の決め手を駆使し、鮮やかに突き抜ける。一躍、クラシックの有力候補に躍り出た。
しっかり力を蓄え、弥生賞から再スタート。スローに流れるなか、後方でじっくり構える。ここでも最速タイ(3ハロン34秒6)の上がりを繰り出した。逃げ馬をきっちり捕え、悠然とゴールに飛び込む。
「いつでも動ける外目で折り合い、持ち前の瞬発力をフルに生かせました。まだまだ成長がたっぷり見込めるタイミング。このままの姿でスケールアップしてくれれば、大きなタイトルに手が届くと意気込んだのですが」
馬と人との絆を強め、着々とガードを固めつつあったカデナ(フランス語で南京錠)。さらなる栄光へと邁進するものと思われたが、末一手の脚質が災いし、皐月賞(9着)、ダービー(11着)とも不完全燃焼に終わる。秋シーズン以降はスランプに陥り、16連敗を喫した。ただし、この間に巴賞(3着)、小倉記念(クビ差の2着)、新潟記念(3着)と健闘。力の衰えなど感じさせなかった。小倉大賞典で後方一気を決め、3年ぶりに復活の勝利を収める。
大阪杯(4着)や、毎日王冠(4着)で見せ場をつくったうえ、8歳時の小倉大賞典も3着に食い込む。初ダートのマーチS(5着)で掲示板を確保するなど、ラストランとなった天皇賞・秋(12着)まで精一杯、走り続けた。
若駒当時の華々しい快進撃が忘れられない一方、ベテランになっても味わい深い魅力を放ち続けたカデナ。アロースタッドで種牡馬となった。今後も厳しい競争が待ち受けているが、ぜひ長きに渡って守り抜いた豊かな財産を次世代に伝えてほしい。