サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
オーミアリス
【2014年 小倉2歳ステークス】不思議の国からやってきたミラクルガール
タガノアザガル(ファルコンS)、セカンドテーブル(京王杯2歳S)、クールホタルビ(ファンタジーS)ら、多彩な個性が集った2014年の小倉2歳S。大外一気の差し切りを演じたのはオーミアリスだった。次位をコンマ5秒も凌ぐ圧倒的な上がり(3ハロン34秒3)を駆使している。
藤沢則雄調教師は、単勝120・2倍の低評価を覆す一撃をこう振り返る。
「一度使って調教の動きは上向いていました。リングハミに替えた効果もあり、ずいぶん乗りやすくなっていましたしね。ただ、中団からの競馬を想定していたのに出遅れてしまい、これは厳しいと見ていたんです。驚きましたよ。速いペースに恵まれたとはいえ、あんな脚を使えるなんて」
ダンシングブレーヴの貴重な後継であり、長丁場での強さが光るホワイトマズルが父。ただし、ビハインドザマスク(スワンSなど重賞3勝)ら、牝にはスピードタイプも多い。母ポットアカデミー(その父ロイヤルアカデミーⅡ)は未勝利だが、朝日杯3歳Sを制したリンドシェーバーの半妹にあたる。アメリカで重賞2つを含む23勝をマークしたベーシイドが祖母。同馬の半兄にパープルアカデミー(4勝)、パープルセンリョ(3勝)がいる。
「1歳時に育成先の三田馬事公苑で見学し、整ったバランスに惹かれました。ちょうど兄たちを管理した飯田先生(雄三調教師)も来場していて、薦めてくれたんです。幸せな巡り会いでしたね。治療が大嫌いだとはいえ、とても素直で賢い性格。常に一所懸命です」
2歳6月に入厩すると、スムーズに態勢が整う。小倉(芝1200m)で迎えたデビュー戦は、コーナーで外に逃げたぶん、1着同着だったが、手前が替わったゴール前でぐんと伸びている。
「ダートの中距離で走っているファミリー。適性などは半信半疑でしたが、無事にクリアしてくれた。交わせなかったと思い、口取りの記念写真は撮らなかったのですが、ぎりぎりでも取りこぼさなかったからこそ、次の喜びにつながったわけです。オーナー(岩崎僖澄氏)も、ジョッキー(国分優作騎手)も、初めての重賞制覇。“持っている”馬ですよ」
夢は大きくふくらんだが、相変わらずスタートが不安定。徐々に旺盛な闘争心も薄れてしまう。阪神JF(9着)以降、無念の12連敗を喫した。5歳1月になって、突然の悲劇が。放牧先で疝痛を起こし、あっさりとこの世を去ってしまった。
それでも、ターフに舞い降りた「不思議の国のアリス」が巻き起こしたミラクルは、月日を経ても鮮烈なまま。多くのファンの心の中で、永久に懸命なパフォーマンスを演じ続ける。