サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アグネスタキオン
【2001年 皐月賞】超光速の瞬発力で駆け上がった輝かしき頂点
内国産として51年ぶりとなるリーディングサイアーを獲得し、サンデーサイレンスの血をきらびやかに発展させたアグネスタキオン。ロジック(NHKマイルC)、ダイワスカーレット(有馬記念などG1を4勝)、ディープスカイ(NHKマイルC、ダービー)をはじめ、数々のトップクラスを輩出した。心不全のため、11歳の若さで急死したのが惜しまれるが、大舞台向きの底力が魅力である。母父になっても昨シーズンまで9年連続してリーディングの10位以内を確保。優秀な遺伝子は依然として存在感を示し続けている。
母は桜花賞を制し、オークスでも2着したアグネスフローラ。オークス馬の祖母アグネスレディーに連なるエリートである。全兄のアグネスフライトもダービー優勝を成し遂げた。祖母、母、兄だけでなく、同馬の手綱も取ったのが河内洋調教師。騎手時代に数々の栄光を手にしたトレーナーにとっても、別格の一頭だった。
「わずか4戦4勝で競走生活を終えたけど、いまでも鮮明なインパクトが残っているよ。芝の中距離では、歴代の名馬と比べても一番強かったと思う」
暮れの阪神、芝2000mでデビュー。いきなり超光速(タキオン)の決め手を爆発させ、3馬身差の快勝を収める。いきなりハードルを上げ、ラジオたんぱ杯3歳S(当時)に臨むと、3着したクロフネ(NHKマイルC、JCダート)を楽々と競り落とし、2着のジャングルポケット(ダービー、ジャパンC)にも2馬身半の決定的な差をつけて優勝。早くも3冠は確実とささやかれ始めた。
クラシックに向け、ステップに選んだのが弥生賞。不良の馬場状態にもかかわらず、単勝1・2倍の断然人気に推される。とてもかなわないと対決を避ける陣営も多く、8頭立てでゲートが開いた。馬なりで3番手を進み、コーナーを左手前のままで回りながら、直線は独壇場。2着のボーンキング(京成杯)は5馬身もちぎられた。懸命に追いすがったミスキャスト(福島記念2着)、マンハッタンカフェ(菊花賞、有馬記念、天皇賞・春)がさらに2馬身後方。
「乗っていて、不安を感じたことなど一度もない。ただ、馬場のいいところを走らせても、すごく下が悪かったから。あのレースだけは、ラストで苦しそうな素振りがあったよ。着差はともかく、良ならばもっと強さを見せられたはず。最もリードを広げた一戦ながら、一番の辛勝だったかもしれない」
続く皐月賞も、1・3倍の圧倒的な支持にふさわしいパフォーマンスだった。楽な手応えで好位を追走。直線で満を持して先頭に躍り出ると、後続を寄せ付けず、ゴールに飛び込んだ。コンマ2秒差の2着がダンツフレーム(宝塚記念)。ジャングルポケットは3着に終わる。レベルの高い世代にあって、その脚力は次元を超えていた。
しかし、ダービーへ向けて調教ピッチを上げた矢先、左前に浅屈腱炎を発症。底知れないポテンシャルを全開させることなく、ターフを去ることになる。
「2000m以上に関しては未知だとはいえ、スピードもスタミナも兼ね備えていた。能力だけで克服できただろうね。すべてにおいて理想的な競走馬だった」
いまVTRを見返しても衝撃的であり、何度でも深い感動を呼び起こすアグネンタキオンのパフォーマンス。未来へと語り継ぎたい伝説のヒーローといえよう。