サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

オースミダイドウ

【2006年 デイリー杯2歳ステークス】目覚ましいスピードで頂点に迫った黒い弾丸

 セレクトセール(当歳)に上場され、3100万円の値が付いたオースミダイドウ。管理した中尾正調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。

「当時はひょろっとしていて、地味に映ったね。それが見るたびにどんどんたくましく成長。うれしい驚きだったし、安い買い物だったと思えたよ。すごい筋肉が備わって入厩。これはものが違うと思わせた」

 シーザリオ(オークス、アメリカンオークス)やブエナビスタ(ジャパンCなどG1を6勝)を送り出したスペシャルウィークが父。母ストームティグレス(その父ストームキャット、3勝)はフェアリーSを2着した快速馬だ。母の半兄に米G1・ハリウッドフュチュリティなど重賞4勝のテハノがいる。

 社台ファームでの育成時より、卓越したスピードやパワーが評判に。2歳4月、栗東へ移動すると、楽々と好タイムを連発する。単勝1・2倍の断然人気に推され、京都の芝1200mでデビュー。後続を5馬身も引き離し、順当に新馬勝ちを収める。

 一気の距離延長にもかかわらず、野路菊Smも危なげない逃げ切り。デイリー杯2歳Sは初めて中団に控えるかたちとなったが、あっさり突き抜けた。

「将来に向け、できれば控える競馬を教えたいと思っていたなか、理想的な勝ち方ができた。ただ、朝日杯FS(逃げ粘って3着)のレース中に左ヒザを剥離骨折。本来なら、G1のタイトルを手にできたんじゃないかな」

 幸い軽傷だったため、自厩舎で回復を待ち、2月には馬場入りを再開する。丹念に仕上げ直され、NHKマイルC(12着)で復帰を果たした。

「悪い条件が重なった。久々の不利、悪化した馬場、そして、イレ込み。ちょうど府中はお祭り(大国魂神社の例大祭である『くらやみ祭』)の最中だった。太鼓の音が競馬場まで響いてきたことが影響してね。再び東京へ行くのは大いに不安だった。それで目標を切り替え、当日輸送で臨める中京の白百合Sに向かうことにしたんだよ。なんとか力で押し切ってくれたんだけど」

 さらなる前進が可能と思われたが、左ヒザに再度の骨折を発症。精神面にも激しさを増していく。丁寧な立て直しも実らず、連敗を重ねた。この間に中尾師が定年を迎え、子息の秀正調教師に管理が移ってからも、復活の勝利は上げられなかった。

 7歳1月の淀短距離S(10着)を走り終え、地方競馬へ転出したが、園田の初戦で競走中止。土佐黒潮牧場で乗馬となり、静かに余生を送っている。

 超一流の資質でスター街道を駆け上ったオースミダイドウ。晩年は苦悩の連続だったとはいえ、胸が躍る快進撃が忘れられない。