サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
オメガハートロック
【2014年 フェアリーステークス】純真なハートで勝ち取った初春の栄光
山元トレセンで乗り込まれていた時点でも、素軽い反応が評判だったオメガハートロック。8月になって美浦に入厩し、ゲート試験を1回でパスすると、いったんリフレッシュを挟み、10月に帰厩した。常に楽々と動ける前向きな性格。1か月足らずで出走態勢が整った。
ロジユニヴァース(ダービー)、アンライバルド(皐月賞)、ヴィクトワールピサ(ドバイワールドC、有馬記念、皐月賞)、ネオリアリズム(クイーンエリザベス2世C)をはじめ、数々の大物を輩出したネオユニヴァースが父。母オメガアイランド(その父エルコンドルパサー)は未勝利に終わったが、その兄姉にアグネスシラヌイ(6勝)、エメラルドアイル(5勝)、そして、有馬記念、ドバイシーマクラシックなどを制したハーツクライがいる豪華な一族である。祖母は新潟大賞典や新潟記念に勝ったアイリッシュダンス。同馬の姉兄弟にはオメガブルーハワイ(3勝)、オメガスカイツリー(4勝、地方5勝)、オメガハートランド(フラワーCなど3勝)、ナリノモンターニュ(現3勝)らがいる。
1番人気(単勝2・8倍)を背負い、東京の新馬(芝1600m)に登場。ゲートで後手を踏んでも、すっと好位に取り付くセンスの良さを見せる。冷静さを保って追走でき、あとはゴーサインを待つだけ。なかなか前が開かず、エンジンがかかったのは直線の坂を登ってからだったが、瞬時に先頭へと躍り出た。コンマ1秒差の接戦であっても、鮮烈なインパクトを残した。
イライラしがちな精神状態や、脚元に負担がかかりやすい面を考慮し、2戦目には年明けのフェアリーSを選択。順調に態勢が整う。そして、一気の重賞制覇がかなった。スムーズなレース運びではなかったものの、ラストまで懸命に脚を伸ばし、みごとに混戦を断った。
戸崎圭太騎手も、こう安堵の笑みを浮かべる。
「新馬の勝ち方や稽古の感触から、素質の高さには自信を持っていましたよ。この馬のリズムで運ぶように心がけました。スタートで頭を上げ、一歩目は遅かったのですが、デビュー戦も同様。2戦目でも落ち着きがあり、こんなスローペースを克服できたのは収穫です。道中はごちゃ付き、接触するシーンもあったのですが、馬群のなかでしっかり我慢してくれましたね。直線の決め手はすばらしかった。かなりの可能性を秘めています」
ところが、レース中に右ヒザを剥離骨折していたことが判明。春のクラシックはパスすることとなった。秋華賞(11着)より戦列に復帰したが、気性に難しさを増してしまい、7連敗を喫する。懸命の立て直しも実らず、結局、5歳時の初音S(12着)がラストラン。社台ファームで繁殖入りした。
フェアリーSで示した卓越したパフォーマンスは、決して色褪せない。繁殖成績も優秀であり、オメガエリタージュ(3勝)、フローズンカクテル(1勝)を送り出している。さらなる大物の誕生を待ちたい。