サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

オディール

【2007年 ファンタジーステークス】淀のスワンを魅了した天才的な舞踏

 育成先の大山ヒルズでも、軽快なキャンターが評判になっていたオディール。2歳の5月初旬、同期に先駆けて橋口弘次郎厩舎へ入厩した。名トレーナーにとっても、大きな夢を託した逸材だった。

「母キュンティア(その父ダルシャーン、2勝)は、タタソールズのセリで見出した思い出の一頭。2戦目で阪神3歳牝馬S(現阪神ジュベナイルF、97年)を2着したほどの素質馬だったからね。繁殖としても期待が大きかったが、子宮炎を患って、なかなか産駒に恵まれなくて。待望の初仔がオディールだった。父のスピートも受け継ぎ、シャープな身のこなし。もともと桜花賞を意識した天才肌だったよ」

 芝・ダートを問わずコンスタントに勝ち上がり、スリープレスナイト(スプリンターズS)では橋口師へもG1をもたらしたクロフネの産駒。調整は順調に進み、6月の阪神(芝1200m)に1番人気を背負って初登場する。もたれる若さを見せて3着に終わったものの、続く同条件を4馬身差で突破した。

 当初は新潟2歳Sへの参戦を視野に入れていたが、インフルエンザが流行した影響で放牧から戻る予定がずれ込み、りんどう賞より再始動。出遅れながら、2着に追い込む。

 ファンタジーSには前走で届かなかったエイムアットビップに加え、新馬戦で先着を許したエイシンパンサーも参戦。4番人気に甘んじた。ただし、初のコンビとなる安藤勝己騎手は、追い切りに跨った時点で好勝負に持ち込めると見ていた。

「折り合いに問題はなかったし、追ってからも味がありそう。ある程度の位置で、末脚を生かすつもりだった。道中は速い流れの2番手でも、手応えは楽だったね。あと1ハロンで交わせると思った。いい伸びだった」

 エイムアットビップにコンマ2秒差を付ける快勝。一躍、クラシック候補に踊り出た。

 外から早めに動かれる厳しい展開に、阪神JFは4着。チューリップ賞では目を見張る伸び脚を見せながら、ハナ+ハナ差の3着に泣いた。イレ込みが激しかった桜花賞を12着。直線で窮屈になったオークスも5着止まりだった。

 ローズS(4着)、秋華賞(9着)と歩んだ3歳の秋シーズン。気持ちのコントロールや脚の使いどころに課題が残り、京都牝馬S(5着)、阪神牝馬S(3着)も勝ち切れなかった。不良馬場に苦しみ、福島牝馬Sは14着まで後退してしまう。

 降級をきっかけに立ち直り、三宮特別(2着)を経て、西海賞で順当に3勝目をつかむ。だが、思わぬ悲劇が待ち受けていた。道頓堀S(5着)のゴール寸前に失速。左前脚を開放骨折する重傷を負っていた。

 オディールとは、バレエ「白鳥の湖」に登場する黒鳥。毛色は芦毛でも、黒さが残る若い馬体のまま、この世を去ってしまったのが惜しまれる。それでも、ファンタジーSで披露した天才的な舞踏は、いつまでも語り継がれることだろう。