サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アクティブミノル
【2015年 セントウルステークス】忠実に作戦を遂行するアクティブな優等生
2歳7月の函館(芝1200m)でデビューし、後続を5馬身も突き放したアクティブミノル。北出成人調教師は、こう若駒当時を振り返る。
「初仔なのに、当歳時よりがっちりした好馬体。豊富なパワーやスピードを見込んでいました。それでいて、アグネスタキオンの肌ですので、動かすと柔らかいのが特徴です。フジワラファームで順調に乗り込まれ、もともと短期間で出走させる青写真。6月半ばに函館競馬場へ移動した当初でも、しっかり動けましたよ」
父スタチューオブリバティはストームキャットの後継であり、半兄にレモンドロップキッドがいる良血。同馬の活躍を待たずにオーストラリアへ輸出されてしまったが、日本での代表格に育ったアクティブミノルにも豊富なスピードが伝えられていた。母ピエナアマゾン(未勝利)の半兄にダートで5勝したメイショウダグザがいる。
1週間でゲート試験をパス。練習でもスタート自体はそう速くなくても、二の脚が違った。装鞍などではうるさい面を見せるが、調整に苦労はなく、実戦でのセンスも上々。実質2本の追い切りで新馬勝ちを果たしてしまった。
「本当は前週のダート1000mを視野に入れていたのですが、調教にも跨ってもらった大作くん(松田騎手)から、もう1本追いたいとの希望があり、芝へ目を向けました。適性は想像以上。夢はふくらむ一方でしたね」
連闘で函館2歳Sへ。軽快な逃げで後続を完封する。一気に世代初のタイトルを獲得してしまった。
「余裕たっぷりに初戦を突破でき、急遽の特別登録。フレッシュな状態を保っていましたし、輸送なしで使える環境だったとはいえ、あんな鮮やかに勝ってしまうなんて。好位での競馬を打ち合せていたなか、康太くん(藤岡騎手)があわてるほどの好スタートを切り、ラストで物見をしていたくらいでしたからね。底知れない素材だと思わせました」
同馬向きのスプリント重賞が組まれていないなかでも、京王杯2歳S(6着)、朝日杯FS(5着)、ファルコンS(2着)と、確かな能力を示す。だが、ニュージーランドT(15着)後に歩様が乱れ、5か月間の休養を挟んだ。
セントウルSより再スタート。古馬の強豪が集い、単勝48・0倍の10番人気に甘んじたが、コンディションは上々だった。押してハナに立つと、中盤でいったんペースを落としたうえ、早めにスパート。鮮やかな逃げ切りが決まった。
「ノーマークになると想像した通り。作戦がはまりました。調教の反応がぐんとシャープに。もともと真面目な性格ですが、精神的に余裕が出て、ずいぶん乗りやすくなりましたよ。G1となれば展開がきつく、スプリンターズSは9着だったとはいえ、そう止まっていません。ところが、無理をしていなくても、阪神C(17着)やシルクロードS(16着)は極端な失速。DDSP(軟口蓋背方変位と呼ばれるノド鳴りの一種だが、喉頭片が麻痺する喘鳴症とは異なり、身体の成熟に伴って自然治癒するケースがほとんど)の症状が見られたんです」
舌を縛れば、呼吸音もスムーズ。フレッシュさを欠いていた気持ちにも配慮し、プール調教を取り入れ、最終追い切りも坂路で軽めに行うなど、メニューに工夫を凝らした効果も表れ、高松宮記念(4着)では立ち直りの兆しがうかがえた。函館スプリントSも4着に健闘。しかし、徐々に本来の懸命な姿勢が薄れてしまう。
5歳時のCBC賞(3着)やアイビスサマーダッシュ(4着)、翌年の淀短距離S(2着)など、スムーズに先手を奪えた際に見せ場をつくったものの、なかなか勝利は手にできず、7歳になって地方・船橋に移籍する。
大井のダビスタマスターズ賞で2着したのが最後の輝き。全35戦を走り抜いたとはいえ、まだ大きな実りを追い求めていた途中にして、調教中の事故により、あっさりとこの世を去った。セントウルSでの痛快なパフォーマンスを思い浮かべながら、冥福を祈りたい。