サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ミツバ
【2019年 川崎記念】若々しく香気を放つ常緑のクローバー
2歳8月、札幌競馬場へ入厩すると、栗東に移動後は3本の追い切りをこなしただけで、阪神のダート1200mに初登場したミツバ(馬名は3月28日の誕生日より連想)。出遅れながら、5着まで差を詰めた。4戦目の京都では大外を突き抜け、初勝利を収める。
JCダート2回をはじめ、ダートのG1を7勝したカネヒキリが父。母セントクリスマス(その父コマンダーインチーフ、地方8勝)の兄妹にサイドワインダー(重賞3勝)、プリンセスジャック(桜花賞3着)がいる。祖母はG2を2勝したうえ、オークスでも2着に追い込んだゴールデンジャックだ。
「この父とはいっても、初めて見た当歳時より華奢なスタイル。母系のイメージもあって、ダートの本格派とは思えなかったなぁ。BTCの山口ステーブルでもトラブルなく乗り込みを消化。大きく育たなかったぶん、時計を求めていないなかでもキビキビと動け、仕上げは楽だったね」
と、加用正調教師は若駒当時を振り返る。
ただし、末一手の脚質。展開に左右され、500万クラスの卒業に9戦を要した。だが、その間に掲示板を外したのは1走しかない。
「あれほど行けないなんて、不思議で仕方なかった。のんびりした性格でも、ゲート練習は素直に出る。パドックでもやる気が伝わってくるのに」
距離延長とブリンカーを着用した効果が表れ、札幌の桑園特別で2勝目をマーク。3着、4着と堅実に歩み、赤穂特別を豪快に差し切った。
降級後に加古川特別を圧勝するのだが、準オープンでも韓国馬事会杯(6着)以外の5戦が6着以内。オークランドRCTでは次位をコンマコンマ8秒も上回る末脚(3ハロン36秒3)を繰り出し、2馬身半差の快勝を収めた。
「早めに仕掛けてほしいとジョッキーに伝えていても、まだ脚を余してしまう傾向が残っていた。全力を尽くしていないせいか、状態の変動が少なく、コンスタントに使えるのは強み。上級クラスのペースのほうが集中できるうえ、精神的にひと皮むけつつある予感もあったよ」
シリウスSで4着まで差を詰めた後、ブラジルCに優勝。がらりとレース運びが一変し、ハナを切って場内を沸かせた。自在の立ち回りが身に付き、ベテルギウスSを差し切り。5歳時の川崎記念も4着に健闘する。アンタレスS(11着)は後方に置かれたが、ブリリアントSを快勝し、マーキュリーCへと弾みをつけた。
先行集団を見る位置でレースを運び、3コーナーから促して進出を開始。熾烈な追い比べをクビ差で制し、ついに重賞のタイトルを手中に収めた。
「相手はピオネロ(2着)だろうと。あとはクリノスターオー(3着)がどのぐらい粘れるかと見ていたが、盛岡はミツバに合うコース。気持ちに左右される面が残っていたけれど、松山くん(弘平騎手)が馬のリズムに添って導いてくれた。3分3厘あたりは手応えが怪しかったが、体を併せたら闘争心を燃やしてくれたね。これならば、いずれ大きなタイトルを狙えると勇気が沸き起こってきた」
シリウスS(6着)をステップにJBCクラシックに挑み、3着に食い下がる。チャンピオンズC(6着)、東京大賞典(6着)の内容も上々だった。名古屋大賞典(2着)、アンタレスS(2着)、平安S(4着)と善戦したうえ、マーキュリーCの連覇を達成。エルムS(3着)を走り終え、白山大賞典(11着)やチャンピオンズC(8着)で勢いに陰りが見えたかと思わせながら、名古屋グランプリで2着に浮上する。
そして、ベストパフォーマンスとなった川崎記念へ。前半は中団の位置取りとなったが、小回りコースを意識して早めに動いた。直線は逃げ込みをはかるオールブラッシュと、断然人気にふさわしい伸びを見せたケイティブレイブの間を割り、瞬時に先頭へ踊り出る。抜群の勝負根性を発揮して2馬身半も差を広げた。
「感無量。だんだん筋肉が備わり、順調にパワーアップ。7歳になったとはいえ、まだ能力を隠している気配があった。追える和田ジョッキー(竜二騎手)が持ち味をフルに引き出してくれたよ。ここまで時間がかかったぶんも、うれしくて仕方なかったなぁ」
以降もダイオライト記念(4着)、帝王賞(4着)で掲示板を確保。ラストランとなった8歳時の名古屋グランプリ(5着)まで若々しい香気を放ち続ける。G1の勲章だけでなく、全52戦(11勝)という誇れる戦歴を残して、ダート戦線に鮮やかな彩りを添えたミツバ。いつまでも語り継ぎたい個性派である。